アリンコの知恵袋①元NYT東京支局長「ぬるま湯の日本メディアよ、オンリーワンのニュースを」

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ワセクロが頼りにする「知恵袋」たちを講師に迎えた全8回の連続講座、「アリンコの知恵袋」が8月21日、始まった。

初回の講師は元ニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・ファクラー氏だ。

ファクラー氏はブルームバーグやAP通信、ウォールストリート・ジャーナルの特派員として東京や北京、上海を中心に東アジアを取材。2009年にNYT東京支局長に就いた。「総会屋」や「ヤクザ」、東日本大震災や原発事故を世界に報じてきた。

この日のテーマは、“「記者クラブ記者」はもういらない〜ネット時代にメディアはどう生き残るか“。

ファクラー氏がいう「第2の革命」の中で抜きん出るメディアの条件とは?講座の要旨を紹介する。

【ワセダクロニクル・辻麻梨子】

マーティン・ファクラー氏。集まった参加者との意見交換も活発に行われた

選ばれるようになった“神様”

ネット社会におけるメディアと読者の関係性は変わった。

かつては新聞やテレビが何でも知っている「神様」のように情報を発信し、それを読者が受け取る「一方通行」だった。しかし今では、読者はネット上を検索し、自分がその時知りたいと思った情報を即座に手に入れることができる。どの情報をどのメディアから得るかを、読者が主体的に選ぶことが可能になったのだ。

発信力も、読者はSNSを通じて手に入れた。「自分たちで発信できるからジャーナリストは必要ない」。アメリカではこんな声も2000年代の初頭から出てきた。

膨大な数の人たちが発信するようになり、ネット上では情報があふれた。読者は記事の出所や誰が書いた記事なのかを気にしなくなった。

「フェイクニュース」は、そうした状況で蔓延していった。

日米メディア“痛恨の失敗”

ネットの発達とは裏腹に、新聞の読者は激減していく。アメリカの新聞社は、読者をネット上に求めるようになった。自分たちが取材して制作した記事を、ネットに送り込んだ。

記事は無料で公開した。多くのページビューを稼ぎ、広告収入につなげるためだ。

新聞社の記事はプロのジャーナリストが事実を確認し、時には危険を冒して発信する。プロとしての技術と覚悟が詰まったものだ。だが無料で公開してしまったことで、玉石混交のネットの世界で新聞社の記事は埋没してしまった。この時の新聞社の戦略は、メディアの価値を下げる痛恨のミスだった。

さらに、新聞社が迂闊だったことがある。それは、記事のPV数や読者層など「顧客データ」を、グーグルやフェイスブックなどのプラットフォームに渡すことになったことだ。これでは自社のブランド価値を下げたばかりではなく、ライバル会社のマーケティングにまで協力してしまったことになる。

こうしたニュースの安売りという「痛恨の失敗」は、日本の新聞社でも同様に起きている。ヤフーなどプラットフォームが大きくなる一方で、新聞社は部数減とブランド力の低下というダブルパンチに見舞われている。

会場には大手メディアの記者も集まっていた

ニューヨーク・タイムズV字回復の理由

しかしここ数年で、アメリカの新聞社は回復の兆しが見え始めている。

ニューヨーク・タイムズの有料購読者は1995年頃、150万だった。ところが今や470万の有料購読者がいる。

しかも470万の有料購読者数のうち、380万人は紙の新聞を読まないデジタルだけの購読者だ。つまり、新聞社にとって逆風だったネット時代を勝ち抜き、NYTは「ネットメディア」として生まれ変わったのだ。ワシントンポストなど他の新聞社もネットメディアに変化することで、危機を脱している。

アメリカで新聞社が再び力を取り戻した理由は二つある。

一つ目は新聞社に対して、権力を監視するというジャーナリズム本来の機能を期待する国民が増えたことだ。トランプ大統領は、自分を批判するメディアを「フェイクニュース」と名指しするなど、気に入らないものは誹謗中傷する。国民は「こんな時にプロのジャーナリストを抱える新聞社が踏ん張らないでどうするんだ」と新聞社の背中を押す。

こうした期待に応え、メディア自身も権力監視の役割を再確認し、発表報道に頼らない独自路線の報道を目指すようになっている。

二つ目の理由として、メディアが大量の情報の中から優先度をつけ、ストーリーを整理し、わかりやすい形で読者に提供していることがある。「ゲートキーパー」の役割だ。

例えば香港のデモ。「今何が起こっているのか」「なぜ起こっているのか」といった情報を、情報源の言いなりではなく、きちんと価値判断をした上で提供する。そのような情報にはお金を払う価値があると、読者は感じるのだ。

大手新聞社は不動産で安泰?

日本でもアメリカの後を追うように、「なぜメディアが必要なのか」「どのようなメディアに読者はお金を払うのか」という議論がメディアの当事者で続けられてきた。

だが日本の場合は、いまだメディアの危機感は薄い。斜陽産業だとささやかれていても、「大手新聞社は安泰」というぬるま湯思考がはびこっている。不動産収入の多い新聞社もあるので、そのことが影響しているのかもしれない。

ネット時代の激動期で抜きん出るために、はっきりしていることが一つある。

それは、「オンリーワンのニュース」を提供することだ。

しかし、日本のメディアはいまだに横並びの記者クラブ報道が基本。どのメディアの報道も大して変わらない。

ジャーナリストとして権力に挑む姿勢も弱い。まさにぬるま湯に浸かっている。

オンリーワンのニュースがなければ、存在理由が無くなり、やがて滅びる。

スマホによる第2の革命

さらに時流は変わり続けている。

注目すべきなのは、多くの読者にとってニュースを入手する手段がスマートフォンになっているという点だ。記事に目を通す時間も短い。見出しや最初の1〜2行ですぐに判断し、そこで興味を持たれないと読まれることはない。

ニューヨークタイムスでは「Mobile First」というスマホ読者ためのアプリ開発や記事の見せ方の工夫を戦略的に実行している。一目見ただけで大体の内容がわかる見出しを付け、ウェブサイトデザインもシンプルに一新した。現在は読者の8割がスマホで記事を読んでいる。

忙しい読者に対して、どうしたら情報が届くのか。技術面でもユーザーの視点に立った工夫が必要だ。「何もせずとも読んでもらえる」という時代は終わった。

メディアの生き残りは、発信の手法にも左右されている。インターネット登場による最初の革命はパソコンでどう見せるか、だった。しかし今はスマホユーザーにどういう表現手法でニュースを届けるのか知恵を絞る必要がある。

スマホによる第2の革命に日本のメディアが対応できるか。生き残りはそこにかかっている。

米国で起こったメディアの危機が、日本でも起こっていると語る

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