【二階の硝子窓】 7億2千万円のゆくえ

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齋藤 宏章 (ワセダクロニクル コラムニスト / 消化器内科医)

データベース「製薬会社と医師」の公開から多くの方に反響をいただいてきた。今回はデータベースを元に行った調査研究の結果を紹介したい。研究は日本の医学会の理事に対して個人宛にどのくらいの金額が支払われているのか、というものだ。

学会は医師の勉強の場、治療指針を提示

学会とはどういう組織なのか、一般の方には想像が難しいかもしれない。

日本には129の医学会があるとされている。学会には「日本内科学会」や「日本外科学会」などそれぞれの診療科が集まって組織されたものから、「日本リウマチ学会」のように疾患別に組織されたものまで様々である。最も大きな学会の一つでもある内科学会は11万を超える会員数を誇る。

こうした学会は年に数回学術集会を行って、医療者の知見の発表の場を設けたり、医学雑誌を発刊したり、あるいはガイドラインの作成委員会の組織を主導で行ったりしている。つまり、学会は医師の診療方針の決定や使用する薬剤に大きな影響を与える組織であると言える。

では、学会の運営に携わっている理事は製薬企業からどのくらい金額を受け取っているのか。今回はその研究を行った。

実は欧米ではすでに同様の研究が数多く報告されている。例えば2016年には癌のガイドラインの著者がどのくらいの金額を受け取っていたか分析した論文が掲載された(*1)。著者125人中105人が金銭を受け取り、平均して108万円の受け取りがあったと報告されている。驚くべきことに論文は米国医師会の医学誌に掲載されている。

一方で、日本ではどうか。残念ながら金額に関する先行研究はない。今回データベースが公開されることで初めて金額の議論ができるようになったためだ。私たちは研究を進めた。

学会理事の10%に講師謝礼金の45.8%が集中、最大で1,900万円

日本の主要な19の医学会の理事に提供された金額を解析し、いくつかの興味深い事実が判明した。

一つ目は多くの理事が何らかの形で金額を受け取っているということ、二つ目は受け取っている理事の中でも金額の多寡に開きがあるということ、三つ目は学会によって傾向が違うということである。

対象となった405人の理事のうち, 352人(86.9%)は謝金等の受け取りがあった(計7億2千万円)=図1(謝礼金の受け取りがあった理事の割合)。最も多かったのは講師謝礼金で約5億9千万円。

理事間に金額の多寡がみられ、上位約10%(40人)の医師が全体の45.8%(約3億3千万円)を受け取っていた。最も多く受け取っていた理事は1年間で約1,900万円の受け取りがあった=図2(理事1人あたりの受け取った金額)

学会別にみると日本内科学会が最も多く(約1億5千万円)、日本泌尿器科学会(約1億円)、日本皮膚科学会(約8千万円)が続いた=図3(学会別の金額)

米国の研究でも一般の医師よりもガイドラインの著者などの影響力のある医師には企業からより金銭の提供があることが分かっている。今回の結果も同程度の割合の医師が受け取っているという結果であった。また、理事全体の受け取った金額の中央値は約80万円であり、全体の半分の人は受け取っていたとしても80万円以下ということになる。一方で上位40人の理事の金額を合計すると約3億3千万と全体の45%を超える金額になり、一部の理事が多くの金額を受領している実態が明らかになった訳だ。

学会別に見ると内科学会、泌尿器科学会、皮膚科学会が多く、一方で病理学会や臨床検査学会は少なく、内科的な処方や治療を行う分野の医師がより密接な関係にあるということがわかる。つまり、処方の出やすい分野に、より製薬企業から金額の受け取りが多い医師が分布しているという結論が導き出される。

米国医師会雑誌に掲載、成果を世界に伝える

私たちはこの研究結果を米国医師会に提出し、2019年2月4日、『JAMA Internal Medicine』に英文論文(原題は”Pharmaceutical Company Payments to Executive Board Members of Professional Medical Associations in Japan“)として掲載された。医師と製薬企業の関係について世界は大きく注目している。

「講演や原稿料の対価として支払われているのだから良いでは無いか。」「最新の医療の情報を提供しているのだから良い」「医師である以上、製薬会社からは金銭をもらうべきで無い」「金額の多さによる」等々、医師と製薬企業のあるべき関係については様々な議論があると思うが、そもそも議論の土台となる現状については今回のデータベースを分析するまでは明らかにされてこなかった。

データベースの分析とその結果を論文として残していくことは、問題の認知の広がりにも繋がり、重要な課題であると考えている。

図1:謝礼金の受け取りがあった理事の割合

=図2:理事1人あたりの受け取った金額

図3:学会別の金額

【脚注】

*1  Mitchell, Aaron P., et al, 2016, “Financial Relationships With Industry Among National Comprehensive Cancer Network Guideline Authors,” JAMA Oncology, (Retrieved February 25, 2019, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27561170).

コラム「二階の硝子窓」はワセダクロニクルのコラムニストが担当します。不定期の掲載です。

◉齋藤 宏章(さいとう・ひろあき): 消化器内科医。1990年生まれ、福岡県出身。仙台厚生病院(宮城県仙台市)に勤務。日本内科学会認定内科医。2015年東京大学医学部卒業後、北見赤十字病院で初期研修。2017年より現職。

このほかのコラム「二階の硝子窓」はこちらです。

(2019.02.16)製薬企業と医師への「厳しい視線」(尾崎章彦)

(2019.02.08)国の審議会にも注入される驚きの製薬マネー(谷本哲也)

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