新聞記事で「精薄児を徹底的に絶やす」  【連載レポート】強制不妊(11) 

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宮城県精神薄弱児福祉協会の設立を報じる1957年2月13日付の読売新聞宮城県版の記事。「精薄児を徹底的に絶やすために遺伝性精薄児の断種も行われねばならない」と書かれていた

宮城県精神薄弱児福祉協会が設立され、強制不妊手術の「徹底」を掲げる「愛の十万人運動」が始まる。そこにはマスコミ各社の後押しがあった。

地元紙の河北新報社会長、一力次郎は福祉協会の顧問にも加わる。

河北新報は記事(1957年1月22日付)で、自社の幹部が顧問を務めることになる福祉協会についてこう紹介した。

「精薄児をふやさないよう県衛生部と協力して優生保護思想の徹底にも一役買うことになっている」

福祉協会が発足した翌日の1957年2月13日、読売新聞の宮城県版に、「精薄児をしあわせに 実情訴え施設整備 愛の運動 ことし五百万円目標」という記事が出た。

記事は、「精薄犯罪児」が収容される少年刑務所が年間1人あたり30万円かかることや「精薄児のいる困窮家庭」には生活保護費がかかることなどを指摘。「精薄児」を絶やすために、県民運動による強制不妊手術の「徹底」を次のように訴えた。

「精薄児を徹底的に絶やすために遺伝性精薄児の断種も行われねばならない。これをヒューマニズムの土台の上にやり遂げたいという悲願を持っているのがこの”愛の十万人県民運動”である」

ただ、「愛の十万人運動」による資金集めは順調にいかなかった。

福祉協会が発足してから2年後の1959年1月26日、「愛の県民運動すいせん打合会」が開かれる。福祉協会が、県内の福祉事務所長と教育委員会出張所長を集めた。資金集めが思うように進まないことに危機感を覚えていた。

翌日、朝日新聞が宮城県版でこの会合について報じる。

見出しは「学園の建設も危ない 知恵おくれの子の『愛の十万人運動』 集ったお金やっと半分」。

記事では、運動が1千万円集めることを目標にしていたにも関わらず、650万円しか集まっていないことを伝えた。

「去年の初めに地ならしだけすんだ『小松島学園』も第一期工事だけで二期工事には手がつけられず、三十人の知恵おくれの子どもらを救おうという計画がつぶれることになりそうだと、関係者をあわてさせている」

結果として、福祉協会は小松島学園の建設にこぎつけ、最終的には目標額の1,000万円を集めることに成功する。それは第9話「張り巡らされた『愛』の行方」で書いている。

河北新報は1960年4月8日、小松島学園の完成を県内版で報じた。

見出しは「十一日に入園式 ”愛の施設”小松島学園 実を結ぶ募金運動」。記事では小松島学園を「おとぎの国」と表現した。

「与兵衛沼の上、キリスト教育児院と向かい合うなだらかな丘にでき上がった小松島学園の園舎は静かで健康的で全く理想的な環境にある。白いコンクリートブロックに青い屋根の建物(男子舎、女子舎など五むね千百三十平方メートル)はこの美しい場所にまるで”おとぎの国の学校”のように建ち並んでいる」

当時のマスコミは、強制不妊手術の「徹底」を掲げる「愛の十万人運動」を、こぞって応援し続けていたのである。

NHKは、経営委員の岩本正樹が「愛の十万人運動」を主導した福祉協会の副会長を務め、少なくとも2人の仙台中央放送局長が顧問になった。第5話「オール宮城で『優生手術の徹底』、NHK・河北新報の幹部も顧問に」第6話「NHK経営委員と『優生手術の徹底』」の通りだ。

しかし、私たちは当時NHKが「愛の十万人運動」について制作した番組を特定することはできなかった。

NHK広報局は「記録はNHKには残っていない」といい(*1)、政府は「当時の事実関係について現時点で政府として把握していない」との答弁書を閣議決定した(*2)。

NHKが自ら検証するしかない。

飯塚淳子(72)は、当時のマスコミのこうした報道を、今どう思っているのだろう。

仙台市に暮らす淳子の自宅を訪ねた(*3)。

当時の新聞記事を持っていった。淳子に見せた。淳子は「初めて知りました」といった。

年々視力が弱まり小さな字が読めない。「読んでもらえますか」。淳子にそう頼まれ、各紙の記事を読み上げた。

淳子は始めはうなずきながら聞いていたが、途中で涙声になった。「(障がい者は)人の手はね、確かに借りるかもしれない。だけど、子どもを産んではいけないっていう権利は誰にもないはずなの」(*4)

そして、強制不妊手術の「徹底」を掲げた「愛の十万人運動」が「精薄児のしあわせを高める」と書かれていたところでさえぎった。

「幸せなんかじゃないって。だって、私はこんなふうにされて……。幸せを奪われた」

淳子が1期生として送り込まれる小松島学園では何が行われていたのか。

(敬称略)

[おことわり] 文中には「精神薄弱」など差別的な言葉が含まれていますが、当時の状況を示すために原文資料で使用されている言葉をそのまま使用しました。

=つづく

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[脚注]

*1 ワセダクロニクルは2018年2月28日にNHK会長の上田良一宛に、当時の仙台中央放送局長が「優生手術の徹底」を目的に掲げた宮城県精神薄弱児福祉協会の顧問を務めていたことについて見解を求める質問書を送付した。NHK広報局は2018年3月1日午後4時53分にファクスで「外部の顧問になったという記録はNHKには残っておらず、事実関係は確認できませんでした」と回答した。浅沼博と川上行蔵が当時の仙台中央放送局長だったことは認めた。また、NHK経営委員が同じ宮城県精神薄弱児福祉協会の副会長をしていたことについても、NHK広報局は2018年3月6日付回答で同様に「記録は、NHKには残っておらず、事実関係は確認できませんでした」とした。これらの回答の特徴は、資料は外部の公共機関に残っていて、誰でも入手し、あるいは確認することが可能であるにもかかわらず、NHKはあくまで内部での資料の存否に限定して回答をしている点だ。

*2 2018年 3月 5日に初鹿明博衆院議員が提出した「優生保護法における強制不妊手術とNHKとの関係に関する質問主意書」では「この明らかなる人権侵害に我が国唯一の公共放送機関であるNHKが関わっていた可能性があるというのは非常に問題」と指摘した上で、「国の特殊法人である唯一の公共放送機関、NHKの幹部社員が強制不妊手術を推進する団体の顧問に就任していますが、これは個人の判断のみで顧問に就任していたのですか」「過去にNHKにおいて強制不妊手術を推進するかのような番組を放映していたことを政府は把握していますか」など6項目を質問した。これに対して政府は「当時の事実関係について現時点で政府として把握しておらず、お尋ねについてお答えすることは困難」「御指摘のような『番組』の放映の有無を含めた当時の事実関係について現時点で政府として把握しておらず、また、『NHKが世論形成にどのような影響を及ぼしていたのか』について調査すべき立場にない」と答弁した。出典:「優生保護法における強制不妊手術とNHKとの関係に関する質問主意書」衆議院ウェブページ(2018年3月21日取得、http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon_pdf_s.nsf/html/shitsumon/pdfS/a196112.pdf/$File/a196112.pdf)。「政府答弁書」衆議院ウェブページ(2018年3月21日取得、http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon_pdf_t.nsf/html/shitsumon/pdfT/b196112.pdf/$File/b196112.pdf)。

*3 2018年2月28日17時50分。

*4 カッコ内はワセダクロニクル。

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