薬価算定トップの秋下雅弘・東大教授、「製薬会社主催の講演会は自粛が必要」:【特集】製薬マネーと医師(4)

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薬の値段を決める「中央社会保険医療協議会」(中医協)の中に、薬価を算定するための委員会がある。「薬価算定組織」。委員名は非公表で、委員が製薬会社から得ている副収入については情報開示請求をしても不開示だ。「ブラックボックス」である。その「ブラックボックス」の中で薬の値段が決まっていく。

その算定組織の委員長の秋下雅弘(*1)・東京大学教授(老年病科)ら3人が、製薬会社からそれぞれ1,000万円超の副収入を得ていた。

私たちは前回、秋下委員長に直接取材し、薬価算定組織の運営について語った内容を報告した〈【特集】製薬マネーと医師(3)〉。今回は、同じインタビューの中で、製薬会社から多額の副収入を得ることをどう思うかについて、秋下委員長の言葉を報告する。2018年5月13日、東京都千代田区の都市センターホテルでのインタビューの内容だ。

薬価算定組織の本委員の受領状況

「医師会主催と思って引き受けたら製薬会社の講演会」

秋下委員長は、私たちのデータベースで集計したところ、2016年度に計1,157万円を製薬会社から受け取っていた。内訳は以下の通りだ(千円以下は切り捨て)。データベースはワセダクロニクルと特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所が共同でつくった。

医師には薬を処方する権限がある。どの薬を患者に出すのかは医師の判断に委ねられている。まして秋下委員長は薬の値段の決定に影響力を持つ組織のトップだ。

秋下委員長は副収入の大半を占める講演会の謝金について、「薬の宣伝をしているわけではない」と断った上でこう語った。

「言い訳的になりますけどね、知ってる先生に『先生講演来てください、いついつで』って講演の予定を組み込まれた。で、実はそれにスポンサーがついてます。これ結構あるんですよね。(講演の依頼を)受けた後に、(製薬)会社の人が来て。結構困るんですよね」

「教授になり講演会に呼ばれる機会が増えた」

では秋下委員長は、製薬会社の講演会では講師を務めたくないのだろうか。

「教授とかの立場になって、講演会に呼ばれる機会が増えて、アカデミック・アクティビティ(学術活動)としても講演会に行くっていうことは重要なわけですよね。それが、『製薬会社の講演であったりっていうのはどうなの?』っていう。医師会だったらいいのに、『なんで製薬会社なの?』とかね。僕としては、残念な思いもあります」

「今(講演会を)頼まれるうち9割くらい断っています。なるべく行かないように自分の中で自粛、自主規制をかけないといけない」

そして、秋下委員長は「特に東大の人は自主規制かけている人が多い」といって、自身が所属する東大病院で、患者の個人情報が製薬大手のノバルティスに渡っていた事件(*2)に言及した。

「(ノバルティスの事件で)世の中的にガッと変わった。それじゃなくても全体的にそういう方向に向かっているんだなって思う」

「ネガティブなことは書かないで」

では、医師が製薬会社から得ている副収入を公開されることについてはどう考えるか。

秋下委員長は「誰でも見れるっつったらちょっと嫌ですね」といって理由をこう述べた。

「例えばうちの隣の人がですね、『あの秋下さん、大学の先生でいろいろ、どうなってるんかね』っていわれたら嫌ですよね。それだったら、支払いの請求書とか女房もゴミ出すのも気をつかいますもんね。興味本位で見られちゃうのは、医師としては嫌だろう」

「女房がゴミを出すのも気をつかう」というのは、出したゴミの中に金銭関係の書類が入っていて、人に見られたら困る、という意味だ。

しかし、医師の全ての収入が公開される訳ではない。製薬会社から得た金銭が明らかにされるだけだ。製薬会社から金銭を受領することで、その製薬会社の薬を優先的に処方することがないかチェックするためだ。

そのこと伝えると、秋下委員長は「それはわかっています。そういう仕組みが必要なのもわかっています」といった。

ただ、秋下委員長が嫌がる「誰でも見られる」仕組みはすでにスタートしている。製薬会社と医師との金銭が絡む関係を透明化しようとする動きだ。

米国では、当時のオバマ大統領が進めた医療保険改革法のもとサンシャイン条項ができた。この条項によって、製薬会社から医師への10ドル以上の金品は、医師の個人名とともに情報公開される。2013年から義務付けられた。新薬の治験で少年が死亡してしまった事件がきっかけになった。

日本学術会議の臨床試験制度検討分科会も、「医療施設・機関」「医師への支払額」などの情報を、すべてデータベース化するよう提言している。

金銭の透明化とデータベースの必要性については「シリーズ『製薬マネーと医師』を始めます」でも詳しく書いた。

秋下委員長は取材の中で、「あんまり変なこと書かないでね、ネガティブなこと」といい、記事を出す前に再度会うことを要請した。

私たちはそのため、要請に従って再度の取材を秋下委員長に求めた。ところが秋下委員長は応じてくれなかった。理由は「多忙」。結局、書面でこちらの質問に回答した(*3)。

薬価算定組織の委員が製薬会社から得ている副収入を公開していないことについては、以下のような答えだった。

「開示の在り方については、今後の社会情勢を鑑みながら、関係各省・各機関と連携をもちつつ検討していく課題と考えます」

具体的に何も答えていない。もちろん「公開する」とは一言も書いていない。

=つづく

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[脚注]

*1 秋下雅弘氏のリンク先は、メディカルノートウェブページ(2018年6月28日取得、https://medicalnote.jp/doctors/170127-002-LD)。

*2 ノバルティス事件 東京大学附属病院の血液・腫瘍内科の黒川峰夫教授らが進めていた白血病治療薬の副作用を調べる臨床研究に、製薬大手のノバルティスファーマの社員が関与していた問題。患者データがノ社の社員に渡るなど、臨床研究にノ社が深く関与していた。東京大学の調査委員会は2014年6月に、個人情報保護法などに抵触する「重大な過失があることが認められた」とする最終報告をまとめている。東京大学は2017年2月に研究責任者の黒川教授を文書で厳重注意した。出典:東京大学ウェブページ(2018年6月28日取得、https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400007761.pdf)。

*3 東京大学医学部附属病院パブリック・リレーションセンター総務課総務企画チーム広報・企画担当2018年5月22日付回答。

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