【二階の硝子窓】製薬企業と医師への「厳しい視線」

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尾崎 章彦 (ワセダクロニクル コラムニスト / 乳腺外科医)

 

このコラムをご覧になっている方々であれば、ワセダクロニクル医療ガバナンス研究所が共同で作成したマネーデータベースについては、すでに知るところだろう。2019年1月15日に公開を開始してから、現在(2019年2月14日)までに、9万人に近い方々がウェブサイトを訪問してくださっている。この数字は私が想像していたより遥かに多い。しかし、日本全体の人口を考えると、極めて微々たる数字と言える。このようなデータベースに関心が高いはずの日本の医師数(31万人、2014年時点)の3分の1にも満たない。私たちの願いは、このデータベースを、多くの方々に、公共財のように使っていただくことである。現状はそのような理想からは程遠く、作り手として、このデータベースについての周知・宣伝が十分でないことを痛感している。今回のコラムが、データベースを多くの方に知ってもらうためのきっかけとなることを期待したい。

ところで、データベースにおいては、製薬企業と医師との金銭的な関係に関して、訪問者を対象としたアンケートを実施しており、大変興味深い結果が得られている。今回のコラムにおいて、その一部を紹介したい。なお、回答数は現時点で110人にとどまっており、データベースを訪問くださった方々全体を代表する回答ではないことに、ご留意いただきたい。加えて、データベースを訪問くださった方々は、世間一般の方々よりも、製薬企業と医師の金銭関係について、批判的な意見を持っている可能性もあるだろう。

主治医への信頼度に及ぼす影響は?

今回、ご紹介するのは、製薬企業から医師(特に、主治医)への研究目的以外での利益供与(例:贈り物や食事などの接待、講演会の講師謝金)が、主治医への信頼度に及ぼす影響について、具体的な事例ごとに尋ねた結果である。一般の方々には馴染みがない事例も多いと思われるが、株に関するものを除き、医師であれば、普段の診療の中で遭遇する事例が大部分を占めている。

どのように結果を解釈したら良いか、試しに、商品に関するパンフレットの結果について、丁寧に見てみたい。

このようなパンフレットは、製薬企業が、自社製品に関する研究成果や副作用などの薬剤情報をまとめたものである。この事例においては、「あなたの主治医が、製薬企業の営業職から、製品に関する情報をまとめた冊子やリーフレットなどを受け取っていたとすると、主治医への信頼度にどのように影響しますか」と尋ねている。それに対して、「主治医への信頼度が上昇する」、あるいは、「主治医への信頼度がどちらかと言うと上昇する」と回答した方々は28.1%であり、一方で、「主治医への信頼度が低下する」、あるいは「主治医への信頼度がどちらかと言うと低下する」と答えた方々の割合は16.6%であった。

以上からは、この事例については、信頼度が上昇すると考える方々の方が、信頼度が低下すると考える方々よりも多かったことがわかる。これは、パンフレットを主治医が受け取った場合、薬剤の適切な使用につながると患者さんが考えていることの現れだろう。実際、患者さん向けのパンフレットは、その分野の専門家の監修のもと、イラストなども用いて、わかりやすくまとめられていることが多い。

要は、自分の所得から購入しなさいということ

ただ、全体を俯瞰すると、パンフレットについての回答は、例外的に好意的だったことがわかる。「主治医への信頼度が(どちらかと言うと)上昇する」と回答した方々の割合が、「主治医への信頼度が(どちらかと言うと)低下する」と回答した方々の割合よりも大きかった事例は、パンフレットを除いては、教科書・論文の受け取りのみであった(32.1% vs. 27.1%)。なお、教科書や参考書・論文の受け取りにおいては、パンフレットの受け取りに比較して、「主治医への信頼度が(どちらかと言うと)低下する」と回答した方々の割合が、10%ほど高かった(27.1% vs. 16.6%)。

これは、二つの事例における利益供与の多寡が関係していると推測される。医療分野の教科書は、安価なものであっても、数千円程度は下らない。また、論文についても、正攻法で購入した場合は同程度のコストがかかる。教科書や参考書・論文が診療において必要なものであることは疑いもないが、製薬企業自身が作成したパンフレットより大きな利益供与になると判断された可能性がある。要は、自分の収入から購入しなさいということだろう。

謝金の受け取り、50.0%が「信頼度が低下」

加えて、今回のアンケート結果で特に興味深かった事例は、医療者を対象とした勉強会や講演会に関するものだ。製薬企業が主催する勉強会や講演会において主治医が弁当や食事を振舞われること、そのような会に参加するために主治医が交通費や宿泊費を支払ってもらうこと、さらに、そのような会で主治医が講師を務める見返りに個人として謝金を受け取ることという3つの事例について、「主治医への信頼度が(どちらかと言うと)低下する」と回答した方々は、それぞれ、44.8%、55.2%、50.0%であった。

近年、製薬企業と医療者の金銭関係については規制が強化されている。ごく最近も、カレンダーや付箋紙といった文房具の配布も禁止された(2019年1月から)。そのような中で、製薬企業が主催する講演会や勉強会は、製薬企業からの利益供与が最も発生しやすい場面と言えるだろう。実際、製薬企業が開催する講演会について、ある製薬企業の幹部は、「地域の医師を一網打尽にできる」と語っており、製薬企業にとっては、非常に重要な宣伝の場となってきた。

もちろんこのような会の存在が、伝統的に、医師間の交流においても、重要な役割を果たしてきたことは事実である。しかし、本当に必要な勉強会であるならば、医師自身が、製薬企業から離れて開催するように変わっていく必要があるのではないだろうか。

患者の治験登録、説明責任を果たすべき

もう一つ興味深かったのは、治験に関しての二つの事例の結果である。治験とは、製薬企業が新薬を開発する過程で施行される、実際の患者を対象とした試験である。大規模なものでは数千例の患者が参加することがある。

今回治験に関連して、主治医が治験に参加することが信頼度に影響するか、また、主治医が治験において自らの患者を登録し、医療機関としてその謝礼を受け取ることが信頼度に影響するか尋ねた。その結果、「主治医への信頼度が(どちらかと言うと)低下する」と回答した方々は、前者においては26.1%だったが、後者においては57.3%に上った。

この結果には私自身、大変驚いた。何故ならば、治験に患者を登録して、その見返りに医療機関として金銭を受け取るという慣習は、がん専門病院や大学病院などにおいては、ごく当たり前に行われていることだからである。今後、このような事案についても、関係者は説明責任を果たしていく必要があるだろう。

以上、簡単ではあるが、アンケートの途中経過について報告した。読者のみなさまの参考になれば幸いである。

コラム「二階の硝子窓」はワセダクロニクルのコラムニストが担当します。不定期の掲載です。

◉尾崎章彦(おざき・あきひこ): 乳腺外科医。1985年生まれ、福岡県出身。MRIC Global編集長。2010年3月 東京大学医学部後、国保旭中央病院で初期研修。研修医時代に経験した東日本大震災に影響を受けて、2012年4月からは福島県に移住。会津若松市、南相馬市での勤務を経て、2019年7月ときわ会常磐病院乳腺外科。診療の傍ら、震災後の浜通りの住民の健康問題に取り組んでいる。また、製薬企業と医師の金銭関係については、患者目線で問題に取り組むことをモットーとしている。ワセダクロニクルが正式加盟する国際ネットワークGIJN(Global Investigative Journalism Network)主催のアジア大会(2018年、韓国ソウル市)では、‘Investigating Health’ のセッションで「製薬マネーと医師」をテーマにワセダクロニクルとともに共同スピーチをする。

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(2019.02.08)国の審議会にも注入される驚きの製薬マネー(谷本哲也)

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